2010年4月3日土曜日

「消費しない若者」に対する認識の誤り



実は先ほどNHKでやっている番組を見るまで「消費しない若者」とはただの現象を意味しているのではなく、「お前らが消費しないから景気が低迷してんだよ」的な意味合いを含むものという事を知らなかった。私の見解だと若者の消費傾向は中長期的にみて当然と考えていたので、むしろ若者は賢いなぁぐらいにしか思っていなかった。マスコミに出ている政策プロポーターだけではなく、竹中平蔵などといった一応学会に身を置く人間までもが批判的な意味でこれを言っていると知り落胆している。











たった1年だけどそれなりに経済学を勉強してきたつもりの私の見解では「消費しない若者」は正しい。


そして、仮に若者が今以上に消費したとしても経済は成長し無いし、長期的に見てむしろ不経済であると思う。








今から書くことは経済学の極めて基本的な事です。ちょっと長いですが。





・現象0


まず私が仮に「消費しない若者」だとしましょう。そして私は手取り20万円の月収があるとしましょう。


私は今まで毎月10万円しか消費していませんでした。残りは全額銀行にあります。


しかし、来月からは15万円消費するとしましょう。銀行に残る額が10万円から5万円に減ります。











・現象1


さて、人々の消費性向(と貯蓄性向)は何が原因で変化するでしょうか。


主な理由は収入増減率かと思います。


収入が20万で、毎月10万消費していました。来月から収入が40万になったら、たぶん25万消費して15万貯蓄するでしょう。


自分ひとりの収入が極端に増える事はありえないので、実際にはインフレ(お金の価値が下がり、物の価値が上がる)を加味して↑のようになると思います。


丁寧に考えてみましょう。


収入が40万になっても消費は15万に抑えて貯蓄を25万するという人も居るかもしれませんが、これは合理的な行動とは言えません。


インフレを加味すると貯蓄はインフレ率以上の金利でなければ実質的にマイナス金利になるからです。


金利が10%ついたとしてもインフレ率が15%だと、今日預けた100万円で買えた物が、1年後110万円で買えなくなるからです。


つまりインフレ傾向(好景気)ではお金の価値はどんどん下がってしまうので、今使った方(消費)が未来に使う方(貯蓄)より得だからです。


特に日本は金利が非常に低いので、この現象は顕著に現れるかと思います。


ただ、これらの例は極端なお金持ちや貧乏人には当てはまりません。





そして、収入増減率に最も大きく影響を及ぼすのが経済成長率(景気)です。











・現象2


消費性向は経済成長率(景気)に左右されると言う事でしたが、経済成長率を左右するのは何でしょう。


それは労働力×生産性成長率です。


労働人口がどんどん増える状態(今の日本と逆です)であれば、技術的に大した進歩が無くてもそれなりの経済成長を遂げるでしょう。


また、労働人口に変化が無くとも技術の進歩などにより生産性成長率が高ければ、これもまた経済成長へと繋がるでしょう。


逆に、労働人口が少しずつ増えていたとしても生産性成長率に変化が無ければ、経済成長率も大して良い数字にならないと思います。


飛躍的な技術革新があっても労働人口が急激に減少していれば、同じく経済成長率も期待できません。





そして、労働力×生産性成長率は社会の投資により変化します。











・現象3


人を雇う為の費用が無ければ労働力は増えません。


人を育てる為の費用、新しい機械を買う為の設備投資、新しい技術を生み出す為の研究開発費が無ければ生産性の向上は見込めません。


よって投資こそが労働力×生産性成長率の源泉となります。





そして、投資を細かく見ていくと民間投資に分類する事が出来ます。











・現象4


民間投資には『政府貯蓄』『民間貯蓄』『資本流入』の3つに分けられます。


政府貯蓄は税金が財源となる政府が経済をコントロールするために使われます。


民間貯蓄は国民や企業が貯めたお金を、主に金融機関を通じて直接or間接金融という形で経済に投資されます。


資本流入は海外からの投資ですが、言い換えれば借金です。











・まとめ


今まで説明した現象を単純化するとこんな感じです。


民間投資→→→投資→→→労働力×生産性成長率→→→経済成長率→→→消費性向の変化


重要なのは順番です。民間投資の結果として投資があり、投資の結果として労働力×生産性成長率が決定します。


消費性向の変化が起こった結果として、経済成長率が決定する事は無いのです。


ましてや民間投資はなおの事です。








鋭い方はもうお分かりかと思いますが……。


現象0を思い出してください。私が消費性向を変えた現象です。私は毎月の消費を10万円から15万円に増やしました。


するとどうでしょう。必然的に私が銀行に預けていた金額は10万円から5万円に減ります。


これは民間投資(民間貯蓄)の減少を意味します。


民間投資の減少は投資を減らし、労働力×生産性成長率を悪化させ、経済成長率を低下させ、消費性向が下がります。


しかし、私は順番を無視して消費性向を下げずに上げました。


一時的にでも消費が増えればそれが循環して経済は成長し、今まで説明したものの逆転現象が発生します。


一時的にはですよ。


だって辻褄が合わないじゃないですか。


それとも、今までの説明が間違っていて『一時的』ではなく本当に経済は良くなるのでしょうか?


マスコミや竹中さんは良くなると言ってますね。


私の方が間違ってる気がしますよね。











しかし、都合のよい事に具体例がありました。


辻褄が合わないけど私は実際に「消費を増やして貯蓄を減らす」という行動をとる事が出来ます。


そして、実際にその行動を多くの国民がとった国(と時期)があります。


70年代以降のアメリカです。


70年代以降、アメリカはそれなりの経済成長を遂げました。


かと言って「という事はやっぱ問題なくね?」というのは性急です。








実は民間投資が増えていたんです。


民間貯蓄は減少していましたが、それ以上に国債発行による資本流入が増加していました。


その結果として民間投資は増大し、→→→→→→となって消費性向の上昇を維持する事が出来たんです。








さて、アメリカ国債のように日本国債も世界中の国が税金を使って買ってくれるでしょうか。


ありえませんね。そもそも基軸通貨でもないですし、仮に基軸通貨がドルからIMFのSDRになってもありえないです。


海外に借金出来なければアメリカのように輸出の倍輸入(超貿易赤字状態)する事は出来ません。


それは国単位で借金を増やしてでも国民全体が消費を増やす事が出来ないのと同じ事です。


それでも消費を増やせば、民間投資は必然的に低下し、いずれ景気は悪化し、更なる消費減少を招くでしょう。


超短期的には景気は回復するかと思いますが、1,2年で深刻な不況に陥るかと思います。


そしてこのアメリカの現状と、70年代以降のまやかしの経済成長を痛烈に批判し、ノーベル経済学賞をとったのがグルーグマンです。








民間投資には『民間貯蓄』『資本流入』のほかにもう一つありましたね。『政府貯蓄』です。


あれ、もう日本は政府が超絶赤字国債を自国民に発行して『まやかしの政府貯蓄』で維持してる状態にあるみたいですね。駄目じゃん。











ぐだぐだ長文を書いてきましたが、シンプルに考えてみても面白いです。


貴方は今、自分が享受しているモノ以上のものを生み出してますか?


日本は他の国を食い物にする事なしに、享受しているモノ以上を生み出しているでしょうか。








グルーグマンが言うように、新聞やテレビが論じる『経済』はほとんどが偽者だと思います。


今回の『消費しない若者』だけではなく、ケインズ、マネタリズムなどなど。


既に起こった現象を報告する機能に関してはマスコミほど秀逸な存在はありませんけどね。